The Muse of Saint-Germain-des-Prés 2011年6月21日

舞台はピアノとアコーディオン奏者のための台だけのシンプルなもの

暗闇の中、背景に2本の光の筋がまっすぐに上にむかって放たれている

胸のあいたシンプルな黒のドレスを着たグレコが登場する

半世紀以上にわたって歌い続け、彼女の血や肉となっている

シャンソンー人生讃歌を感情たっぷりに歌いあげていく

宝石類は一切つけていないが、飾らない彼女はなにより輝いている

とてもチャーミングで若々しい

ときに愛を知らない可憐な少女となり

ときに哀しき恋を繰り返す大人の女となる

またときに詩人の代弁者として魂を震わせる

『空虚なものは何もない』『時のながれに』

すぐれたフランスの詩人たちによって書かれた歌詞もまたすばらしい

老練なピアノ演奏者のジェラール・ジュアネストは作曲家であり、

実生活でもグレコの伴侶であるようだ

アコーディオン奏者のジャンルイは若い好青年で

2人の息子といった感じである

1人の歌い手と2人の演奏者からなぜこんなにも広い宇宙が生まれるのか

人生をたっぷり味わえるのは、その裏にグレコ自身と

何人ものすぐれた詩人や作曲家の生きたパリが

同時にそこに存在するからであろう。

1時間半という時間、水を飲むこともなく、

アンコールを含め、20曲を熱烈に歌いあげたグレコ

3度のカーテンコールにお辞儀と投げキッス

感謝の気持ちをとても可愛らしいそぶりでしめす

正真正銘、現役の一流の歌い手であった

照れてスタンディングオベーションができなかったの

が悔やまれる merci beaucoup Juliette

84歳の彼女はとてつもなくいきいきと輝いていた

私も死が訪れるその時までいきいきとカメラのシャッターを切り続け

られるだろうか

Takashi Owaki

Archives